(1) なぜ銀行は「技術」を評価しないのか?
①融資審査で見られるのは「財務諸表」だけ
上場企業には、「株式」という資金調達手段があるのに対して、中小企業の資金調達方法は、専ら、政府系を含む金融機関(以下、【銀行】と表記)の「融資」という手段に限られる。
その銀行が、自社の技術を正当に評価せず、自社の新事業の価値や将来性を理解できていないとしたら、中小企業の死活問題になり、もはや新しい事業に取組めない場合も起こり得る。
②金融機関が技術力という知的資産を評価できない理由
銀行は往時と比べて採用数を大幅に減らしている。とは言え、力を入れる部署には優秀な行員を配置したい。その結果、本社には、独自に査定できる有能な決裁権管理職と、決算書以外からも企業価値を見極められる中堅行員が配置され、地方支店には、マニュアル通りの査定しかできない管理職と、同じくマニュアル通りにしか仕事ができない新入社員が配置される。
その結果、本店以外では、事業の先進性や将来性、技術の希少性、独自性は判断できないし、目の前にいる社長の胆力や人物評価もできない。必然的に、決算書を数値化したマニュアル通りの融資しかできないということになる。
これが昭和の頃のような、会社の価値を見極めて融資をする、眼力と覚悟と漢気のある銀行員がいなくなった原因である。
③「事業性評価融資」という新しい潮流
そこで、金融庁は、この状態を改善するべく、「事業性評価融資(企業価値担保権付き融資)」という新しい融資基準にのっとって中小企業融資をするよう進める事とした(この辺りは、以前にも当HPのブログでご紹介している)。
(2)「事業性評価融資(企業価値担保権付き融資)」は、中小企業の救世主となるか?
①制度のタイムライン
2014年 金融庁が「事業性評価に基づく融資」の推進を開始
2024年 6月 「事業性融資推進等に関する法律」が参議院で可決
2026年 5月 企業価値担保権付き融資が本格施行(法制度化)
②都市銀行の動き
本格的な取り組みはまだこれから。上記のように、金融庁は2014年から「事業性評価融資」を推奨してきたが、本格的な取り組みはまだこれからになる。2026年5月の法制度化が転機となるかどうかはこれから。
都市銀行が本格化するのは2026年末までとされている。それまでは、地方銀行や信用金庫の方が先行する状況と言われる。理由は簡単で、中小企業をメインとする融資戦略では、事業性評価がより活用しやすいから。
②地方銀行・信用金庫の現状
特徴的な動き
– 複数の信用金庫では、事業性評価の仕組みを互いに共有してブラッシュアップを進めている
– 短期継続融資 をプロパー無担保で提供し始めた信用金庫も増加
– 一部の信用組合では理事長が審査陣頭指揮で、3営業日以内に判断するという迅速な対応も始まっている
③製造業の場合、どこを評価するのか
製造業の事業性評価では、金融機関は定量・定性各々の以下の4つの視点を総合的に見るといわれる。
○定量評価(数字で見る部分)
– 売上・利益・キャッシュフローの推移
– 製造原価率の動き(材料費の効率性)
– 在庫回転率(余剰在庫がないか)
– 資金繰りの健全性
○定性評価(定量では測れない部分)
– 商流分析(サプライチェーン) → 仕入先の安定性、調達リスク、販売先の集中度、多重下請け構造
– 製造プロセスの強み → 技術力、品質管理能力、納期遵守率、不良率の低さ
– 市場動向 → 参入市場の将来性、競争力の有無、トレンドの変化への対応
– SWOT分析 → 他社にない強み(独自技術、特許、OEM供給先など)、弱み、機会、脅威
– 経営者の資質 → ビジョン、業界経験、課題への対応能力、成長意欲
④製造業特有の注目されるポイント
– どの顧客にいくら販売しているか (大口顧客への依存度)
– どの材料をどこから仕入れているか (調達先の安定性)
– 製造能力の稼働率(生産ラインの余裕)
– 技術力や特許(競争力の源泉)
– 品質・納期・コストの競争力
⑤実務的な準備ポイント
○事業性評価融資を受ける際に、製造業が準備すべき資料
1. 商流図 (仕入先→製造→販売先の流れを可視化)
2. ビジネスモデル図(どうやって利益を生み出すのか)
3. 経営ビジョンシート (今後3~5年の経営方針)
4. SWOT分析
5. 月次の事業実績 (売上・利益・在庫・資金繰り)
⑥事業性融資は、企業にとって不利益なのか
事業性融資は、確かに事業そのものやノウハウ、社員の技術力などまでもが融資の対象となる点で、企業にとって不利益ではないかという声がある。現に、私も以前のブログにそういう趣旨のことを書き、しばらく様子見することをお勧めした。ただ、受けた融資を返済できない場合、事業性融資でなくとも、個人の私的財産まで身ぐるみ剥がれるのであり、特別な不利益になるかというと、似たようなものとも言い得る。
要は、新規事業を始めるのに、無借金で税金を払いつつ資金を貯めてからするか、税金のかからない融資で素早く事業化して事業資金を貯めて計画的に返済していくか、という違いがあるだけである。
問題があるとすると、返済できなくなった場合の自社技術や社員が、今まで敵対していた外資や、締め付けで倒産を招いた元凶の親会社に乗っ取られる可能性という心情的な苛立ちはあるかもしれない。
いずれにせよ、所詮融資も借金という視点は必要かもしれない。
(3)銀行は本当に事業性評価へ移行するのか?
2024年の法制度化、2026年5月の企業価値担保権付き融資の本格施行により、今後は「これまでのように担保だけで判断する時代は終わる」という方向性は一応提示されたことになる。
ただし、現実は二重構造になる可能性がある
– 都市銀行 → 従来型融資も事業性評価融資も共存
– 地方銀行・信用金庫 → 事業性評価をより重視する傾向になる
中小企業の融資が、主に、地銀と信金である以上、「自社の事業を図表なども使って数値できちんと説明できる状態」を作ることが、今後の資金調達では最も重要であり有効と言える。


